乙女心

田吾作さんの携帯電話がなった。菜園仲間の山田さんからだった。
山田さんによれば、孔雀が逃げて、近くの老人ホームの屋根にいて大騒ぎになっているそうで、見に行かないかとの誘いであった。
根っから野次馬、田吾作さんらしいと、思いつつも、ゲンチャリまたがる山田さんであった。

孔雀は2匹で、屋根の上にいた。パトカー、消防車と、大騒ぎとなっていた。
田吾作さんを探すと、警察官と話していた。
誰かが捨てたとのことで、何とか捕獲したいので、協力してほしいとのことで、山田さんも手伝うことにする。
しかし、どうやって、2階の屋根の上にいる孔雀を捕まえるの。
大声を出している人もいれば、小石を投げる人もいたが、どれも効果的とは思われなかった。
証拠に、孔雀は悠然と羽を広げているしまつである。

これでは、しかたないと、老人ホームの駐車場に消防の高所作業車を配備することとなった。
孔雀2匹にとんだ騒ぎとなったものである。

高所作業車が配備され、大きな網も何処からか借りて来た。
高所作業車で庭に落とし、大きな網で捕獲する作戦となった。
田吾作さんと山田さんは、網係りを志願し、庭で待ち構える。

「ハーイ!、孔雀を追って落としますよー」と、ハンドスピーカーががなります。
「それー落ちたぞー!!」と、大きな網を持って脱兎のごとく、孔雀に網をかけます。
「やったー、捕まえたぞー」「捕まえたぞー」と、以外にも大きな孔雀を押さえながら山田さんも、田吾作さんも、興奮島倉千代子状態です。

その時、騒ぎを聞きつけた老人ホームの入所者達が「何事かと」出て来たのですが、今まで寝ていました、と言わんばかりに手に手にブラシを持って髪を梳きながら出て来たのには、田吾作さんも山田さんも、孔雀を取り逃がすほどに場違いな光景を見たようで思わず顔を見合わせてしまいました。

大捕り物の後のビールは美味いと言いますが、行きつけの居酒屋での一杯の時に田吾作さんの「乙女心はいつまでもなんだなー」の一言は、心に沁みる一言となりました。